絵を読もう

自称絵描きマンが絵について考えるブログ

このおっぱいで聖女は無理でしょ

「聖女」であるはずのジャンヌ・ダルクが、なぜ「聖女は無理でしょ」などと言われるのか、絵やゲーム、歴史に関する話題を交えて考えていく記事。

 

Twitterをやっていたら、このようなツイートを見かけた。

 

 

「ジャンヌの名を冠したキャラはなんでエロい身体してるの…?」と悶々としながら絵を描いた模様。リプライ欄を覗いてみると、「エロい!」「好き♡」などといったコメントで溢れている。いいねRTの多さも相まって、大人数に共感されているということだ。

そんな中、ふと気になった文面のリプライがあった。

 

このおっぱいで聖女は無理でしょ

このおっぱいで聖女は無理でしょ

このおっぱいで聖女は無理でしょ

… 

 

どうして聖女は無理なのか…?そこには何か理由があるのではないかと考えた筆者は、勢いでブログを立ち上げ、記念すべき1作目の記事にして「おっぱい」のことを書くというとんでもない舵取りをしようと乗り出したのである。

この記事のタイトルについて

このタイトルは、上のツイートでもご覧いただいたように、じわじわとインターネット上で浮上してきつつある言葉である。

特にpixivでは、「このおっぱいで聖女は無理でしょ」というタグのついたイラストが多数投稿されている。

その件数はなんと1,160件!(2018年4月1日17:50時点。R-18含む)

そのタグのついたイラストを見てみると、一覧には「おっぱい」を筆頭に「女性らしさ」*1をこれでもかと言わんばかりに強調されているものばかりだ。*2

調べたところによると、昨年までは、『Fate/Grand Order』(以後、「FGO」と表記)の登場人物「ジャンヌ・ダルク」に対してユーザー間でしばしば用いられていた表現のようである。

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画像は、ジャンヌ・ダルク - Fate/GO(グランドオーダー) 攻略まとめwikiより。

筆者はFGOをプレイしていないので、昨年まではそのタグの存在を先日まで知らなかった。だが、筆者のプレイしているゲームのキャラに対しても、「このおっぱいで聖女は無理でしょ」と言われるようになったので、このタグの存在を知ったのである。

聖女?な聖女がやってきた

そのゲームとは何か?

それは3月半ばのこと。

サービス開始から4周年を迎えたゲーム、『グランブルーファンタジー』(以後、「グラブル」と表記)内において、衝撃的な出来事が起こった。

 

画像は、ジャンヌダルク (SSR)水着バージョン - グランブルーファンタジー(グラブル)攻略wikiより。

水着姿のジャンヌダルク*3がゲーム内に実装されたのだ。この画像がその水着ジャンヌダルクである。実装当時は筆者も引き当ててやろうと意気込んだものだが、残念ながら当てられなかった。悲しい…

 

筆者による絵の感想

 

このグラフィックをご覧になって、一番最初に視線が向かう先はやはり「顔」(あるいは、「おっぱい」かもしれない)であろう。四つん這いの体勢でこちらに向けられた笑み。そしてその姿勢によっていっそう強調されるバスト。さらに先程まで海水浴を楽しんでいたのか、シンボルである旗とともに、その肢体からは水滴がポタポタと…。背景の太陽がそうさせているのか分からないが、総合的に見て、このグラフィックにおける彼女はまぶしい存在なのである。そして大変エロい。

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「衝撃的な出来事」と言われる客観的な理由

これはあくまでも筆者の主観的な感想にすぎず、ただイラストが優れているというのでは「衝撃的」だとは言い難い。イラストの質だけでなく、当然その他の要因も含まれているのである。

その要因については、『ピクシブ百科事典』の記事に記載されているので、そこから引用しよう。

彼女がゲームに実装された当時(2018年3月)はグランブルーファンタジー4周年キャンペーンの一環として「毎日最高100連ガチャ無料ルーレットキャンペーン」という施策を実施しており、全てのプレイヤーが毎日最低でも1回は10連ガチャを回せる…という状況であった。
その状況下で彼女の実装が予告され、非常に高いレベルでまとまった性能、上限解放後の誘ってるとしか思えない大胆な一枚絵、更に排出開始と同時に「グランデフェス」と呼ばれるSSR装備の抽選確率が通常の2倍になるイベント開催も告知され騎空士たちは大いに沸き立ったという。

そして排出開始の時を迎え、それは起こった。
なんと、先述の事情が重なったことでアクセスが集中しゲームサーバーに過大な負荷がかかり、ゲームプレイができない状況になってしまったのだ。

ジャンヌダルク(神撃のバハムート) (じゃんぬだるく)とは【ピクシブ百科事典】より。*4

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 つまり、グラブル内で開催されていたイベントと、水着ジャンヌダルクのグラフィックの悩ましさとが絶妙に絡み合った結果、グラブルのユーザー間に衝撃が走り、その結果、グラブルの彼女に対しても「このおっぱいで聖女は無理でしょ」と言われるほどに話題になっていったのだ。

聖女でなければなんなのか?

「聖女は無理」と言われるのならば、「聖女」にかわる何かがあるはずだ。それは「魔女」である。

ここでジャンヌダルクの話からいったん離れて、魔女について軽く説明させていただきたいと思う。どうかお付き合い願いたい。

 

さて、魔女と言えば、学校の世界史なんかで「魔女狩り」について学んだことがあるという方も多いのではないか。あの魔女のことである。この中~近世ヨーロッパを中心に存在した「魔女」と呼ばれる女性は 、元々は医学的な知識をもって病人やけが人を治したりするなど、人々の心の拠り所たる存在だった。

 

この女性たちが「魔女」として迫害されるようになったのは、14世紀ごろのこと。正統なキリスト教会が、彼女たちを異端者として見るようになったからだ。教会は、彼女たちの活動が「自分たちの権威を脅かす存在」になり得ると見なしたのである。人々の心の拠り所はわれわれのキリスト教だけでいいということだろう。

 

そうなったら、「魔女」を裁くにあたって、もっともらしい理屈を並べなければならない。そこで教会側は、「魔女は淫乱である」「魔女は悪魔に魂を売った不埒者」などといった歪んだ価値観を人民たちに植え付ける活動を徹底したのである。

 

魔女と化したジャンヌダルク

史実のジャンヌ・ダルクについてお話ししよう。

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ジョン・エヴァレット・ミレイジャンヌ・ダルク

画像はジョン・エヴァレット・ミレイ《ジャンヌ・ダルク》の詳細画像|MUSEYより。

時はイギリスとフランスの百年戦争の時代にさかのぼる。1429年のことだ。「オルレアンを開放しなさい」と神のお告げを聞いたという少女がフランスに現れる。彼女こそがジャンヌ・ダルクである。この時なんと17歳。フランス王太子に拝謁したジャンヌは、騎士に任命されることとなる。彼女自身は剣を振るいはしなかったものの、銀の甲冑を身にまとい、天使を描いた旗印を持って陣頭に立った。その姿こそが味方の兵士の士気を高める結果となり、まさしく心の拠り所たる存在だったのだ。劣勢だったフランスが形勢逆転したのは彼女の功績である。

 

ところがそうなったらなったで、泥沼化した戦いに終止符を打つために、和平交渉に持ち掛けたいと願うようになったので、兵たちにとって希望の象徴であった彼女は、国からは邪魔な存在になった。なんとも勝手な話である。

 

結果、ジャンヌは敵国のイギリスに囚われの身となる。この際フランス側は彼女を奪還しようとしなかったため、本当にフランスは彼女を邪魔者扱いしていたのかもしれない。

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グラブルのワンシーン。筆者のスクショ。ジャンヌダルクが自分への啓示に疑問を呈する場面。

状況は史実とはまるで異なるが、史実の彼女も実質的に味方に見捨てられたようなものなので、このような絶望感にさいなまれていたのではないか。

 

最期はご存じの通り、異端審問にかけられて魔女として火刑に処せられた。

魔女として扱うこととなった決め手は女でありながら甲冑を身にまとった行為――つまり男装をしたことで異端と見なされたのである。

 

魔女として長い間生き続けたジャンヌ

画像はジャンヌダルク (SSR)闇属性バージョン - グランブルーファンタジー(グラブル)攻略wikiより。

史実でのジャンヌ・ダルクは火刑に処せられた時点で生物学的には死亡する。当然だ。

ただし、彼女の戦いはまだ終わらない。死してなお魔女として戦い続けるのである。1920年、列聖されて聖女となるまでは…。

 

そんな彼女の戦いを体現したのが、画像の闇属性バージョン・ジャンヌダルクだ。

生気を感じさせないほどに白い肌。血を思わせる赤い刃。そして極めつけは恍惚感に満ちた表情が特徴である。

グラブル内では、このような姿になってしまったのは「幽世の存在」*5なるものに心の弱みを付け込まれたのが原因である。

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これも筆者のスクショ。戦う意義を見いだせなくなって絶望するジャンヌダルクをそそのかす場面。

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ジャンヌダルクが主人公(かいわれ)*6にしなだれる場面。

グラブルにおける闇落ちジャンヌダルクについて何か気が付いたことは無いだろうか?

そう。今の彼女は、現実のキリスト教会がでっち上げた魔女の定義に該当しているのである。

「魔女は淫乱である」「魔女は悪魔に魂を売った不埒者」…

なんとも皮肉な話だ。

妖艶な雰囲気をまとっているだけで、別に淫乱ではないのでは?と思われるだろうが、魔女狩りが横行していた時代においては、魔女は男をたぶらかす存在として煙たがれていたことを思うと「淫乱!」と見なされてもおかしくはないだろう。

 500年の戦いを経て、列聖

1920年、列聖。魔女から聖女へと生まれ変わった。

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画像はジャンヌダルク (SSR) - グランブルーファンタジー(グラブル)攻略wikiより。

ジャンヌ・ダルクが没した――つまり魔女として扱われ始めた年が1431年なので、実に約500年に及ぶ長い戦いであった。

画像のジャンヌダルクは、闇落ちした彼女が希望をつかみ取り聖女として復活を遂げたものだ。一度は手放した希望の象徴たる旗を再び手にして、兵たちを導く存在に戻った。その瞳にはもはや迷いは残されていない。オルレアンの矜持は砕けず。

「聖女は無理でしょ」と言わしめるほどのおっぱいの真実

ここまで長話にお付き合いいただいた皆さまにはお分かりいただけるかと思う。

ジャンヌダルクは魔女と聖女、両方の道を歩むという数奇な運命を辿ってきたのだ。

出典元は上と同じ

それがジャンヌダルク本人の意識的によるものなのか、無意識的によるものなのかは定かではないが、魔女の時代で培ってきたあの官能性こそが、水着姿の彼女を「悩ましげな存在」たるものにしているのではないか。

 

だから「このおっぱいで聖女は無理でしょ」というのは、かつて歩んできた魔女時代の名残りがあるから故の言葉である。少なくとも、ジャンヌダルクに対しては。

「魔女は淫乱である」のだから。

この言葉、闇落ちしていた頃は皮肉的なニュアンスであったが、今日ではこの性質のおかげで、「エロい!」「好き♡」といった元気になる感情を呼び起こしてくれる。

 

このジャンヌダルクは、魔女特有の妖艶さを備えつつ、聖女として君臨した姿だと言えるだろう。いわゆる、ハイブリッドだ。

参考文献

再びリンクを貼る。この本には魔女と聖女の本質を知るうえで大いに役に立つ。

 

世界史有名人 ホントはこんな人だった! (広済堂文庫)

世界史有名人 ホントはこんな人だった! (広済堂文庫)

 

 ジャンヌ・ダルクの生涯を記述するために活用させてもらった。

この本は、ジャンヌ・ダルク以外にもいろんな人物のエピソードが「広く浅く」書かれているので、歴史の興味の幅を広げてみたいという人におすすめ。

 

美少女美術史: 人々を惑わせる究極の美 (ちくま学芸文庫)

美少女美術史: 人々を惑わせる究極の美 (ちくま学芸文庫)

 

 こちらも、ジャンヌ・ダルクのエピソードを記す参考資料として活用した。この手の美術史の本は絵に込められたメッセージについて詳しく描かれていて、ためになること間違いなしだ。特に筆者のように絵を描く人には強く勧めたい。美少女がテーマなので、今日の「萌え」について考えるのに使えるのではないかと思う。(筆者はまだ未読了) 

*1:この場合、精神的なものというよりは、身体のパーツそのものに対して言っている。

*2:反対に、貧相なタイプのものも存在するがここでは言及しないこととする。

*3:グラブル内では「ジャンヌ・ダルク」表記ではなく、「ジャンヌダルク」表記とされているので、ここでもその表記に従うようにする。

*4:グラブルジャンヌダルクは、元々『神撃のバハムート』のキャラクターである。神撃のバハムートとグラブルは、それぞれCygamesが提供している。

*5:幽世の存在について話をすると長くなりそうなので、ここでは悪魔に等しい存在と認識してもらって構わない。

*6:筆者の使っている名前